"Rooms in Progress" Vol.2
マイク・エーブルソン インタビュー 前編
『好きな光を見つける部屋』

2018年7月末、Hotel CLASKA に POSTALCO デザイナー マイク・エーブルソンによる新客室が完成します。1~2名様が宿泊可能なセミダブルルームが2部屋。6月に入り、現場の CLASKA 7F では本格的な工事が始まりました。

新客室の制作過程を追う "Rooms in Progress" 記事の第2弾は、マイクさんのインタビューです。(第1弾はこちら

影響を受けたという谷崎潤一郎さんの随筆『陰翳礼讃』について、新客室デザインの見どころ、またマイクさんご自身のホテル観についてなど、CLASKA 広報 牛田が色々とお話を伺ってきました。マイクさんによる数々のスケッチとともに、前編・後編に分けてお届けします。


― 今回、Hotel CLASKA の客室をデザインしてくださることになった経緯は?

マイクさん(以下M):
POSTALCO の京橋のお店が昨年オープンした際、CLASKA Gallery & Shop "DO" ディレクターの大熊さんが来てくれました。店内の家具や什器はすべて自分でデザインしているのですが、それを見た大熊さんが「ここまで部屋を作れるなら、CLASKAの客室もぜひデザインしてもらいたい」と。そこから話が始まりました。

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©2018 Postalco / Kyobashi Shop

― CLASKA Gallery & Shop "DO" のオープン当初から、展示の開催や商品のお取り扱いなどでお付き合いがありますが、ホテルを含め CLASKA の建物についてはどういうイメージでしたか?

M: CLASKA はリニューアル(2008年)当初から個人的にも通っていて、東京に住んでいるので機会は多くないですが、ホテルにも一度宿泊しました。古さと新しさのほどよい合間、また立地的にもリアルな日本の街という感じで、海外の人にとっても、日本人にとっても、居心地のよい場所というイメージでした。

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Hotel CLASKA 1F フロント

― 客室をデザインするにあたり、谷崎潤一郎さんの随筆『陰翳礼讃』に影響を受けたと、"Rooms in Progress" の第1弾でコメントされていました。どういった内容がマイクさんの発想の種になったのでしょうか?

M: 『陰翳礼讃』の本(英語版)は、1998年、大学を卒業した頃から持っていました。電灯がなかった時代の日本の伝統的な家屋における陰翳の活用方法について書かれているのですが、部屋の流行りや技術についての指南ではなく、谷崎自身の悩みや試行錯誤に富んでいるのが面白いところ。また、日本と西洋のテクノロジーの進み方や家屋に対する根本的な考えの違いについての考察、「日本で電気が発明されていたら」などの仮説も盛り込まれていて。今の時代に読んでも全く色褪せず、当時アメリカでもデザイン関連の人の多くが読んでいました。

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谷崎の苦悩の過程は、どこかユーモアを感じられます。厠(トイレ)や電灯、ストーブなどの文明の利器を取り入れたいが、日本の風情とは相容れない。苦悩して、色んな思考を巡らせ脱線しながら、結局最後は諦めてしまって答えは出さないんです。だからこそ、読んで考えさせられる。テクノロジーとあたたかみの良い関係やバランスというのは今の時代においても答えを出すのが難しく、大切な観点です。

また、この本を外国人の目線から読むと、より日本の伝統的な良さを感じることも。西洋だと、窓はできるだけ大きい方が良いと当然のように思っていたけど、暗さも良いと気付かされました。

― それらの気付きを、具体的にどうやってホテル客室のデザインに?

M: まずは部屋の明るさについて。旅行などでホテルに泊まる際、電気が多くて明るすぎたり、寝るときにちょうど良い暗さに調整できなかったり、逆に絵を描くときはほしい場所に照明がなかったり...ということが自分の経験として多々あり、もう少し光をコントロールできれば、とよく思っていました。なので、今回の客室は明るさの調整を幅広くできるよう作りたいと思いました。

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― 照明のプランを聞かせてください。

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©2018 Mike Abelson / Postalco

M: 現在鋭意工事中ですが、新しい客室には3種類の照明をデザインしました。ふわっと白が反射する天井付近の照明、全体をやわらかく照らすダウンライト、そして柱の照明。それぞれを調光できるように考えています。

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こちらは、柱の照明のスケッチ。木の柱に光を埋め込んだような見え方にこだわりました。電球が直接目に入らないけど、どこが光源なのかはわかる。そのバランスに気を配っています。

宿泊される方が、好きな光を遊んで見つける。外の時間の経過とも合わせて、明るさも暗さも味わえる。その過程も特別なものにしたいから、電気のスイッチも大切に思えるように演出を仕掛けています。

― 谷崎潤一郎が書いている陰翳の活用方法に影響を受けつつも、ただ暗くするわけではない、ということですね。

M: そうです。ただ谷崎さんの言う通りにするわけではなく、彼の悩みや主張を元に、自分なりに考えた答えを反映しています。例えば僕はヒゲが濃くて、洗面所は明るくないと困るから白く作っているので、谷崎さんが見たら怒るかもしれません(笑)。

― 「テクノロジーとあたたかみのバランス」についても触れられていますが、POSTALCO のものづくりにおいては、商品にあたたかみを与えるうえで素材が重要な役割を担っているかと思います。今回の客室では、どういった素材が使われるのでしょうか?

M: 毎日触れるものにはあたたかみのある素材を、と常に思っていますが、機能性も大切です。ただ機能だけを考えて作ると、冷たい素材で病院のような落ち着かない空間になってしまいます。

今回の客室では、入り口に大きな石を置くことにしました。日本の神社や家の入り口によくある石のイメージです。薄く頼りない人工の床や駅のホームなどと比べて、ソリッドな強さのある石は、足で感じると安定感があります。また、石は昔から自然にあるものなので、そういった点でも触れると落ち着く気がします。良い石を探してきたので、ぜひ宿泊の際には見てもらいたいです。

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©2018 Mike Abelson / Postalco

CLASKA は建物が8F建てのビルで、そういった施設全体との調和も無視したくない。和と洋が融合している場所なので、石などの素材は使いつつも、京都のような「和」に寄りすぎないように心がけています。また、ホテルの客室は家と違い毎日違う人が泊っていく場所なので、経年変化を気持ちよく楽しめるのも大切なポイントです。床材や布、バスルームのタイルなど、すべてそういった点にもこだわって選んでいます。

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*スケッチは新客室のイメージです。実際の客室とは異なる場合があります。


後編では、マイクさんご自身の旅の経験から発想を膨らませたという、新客室の2つの特徴についてご紹介します。6月19日(火) 公開予定です。お楽しみに。

また、新客室施工中の最新情報は POSTALCO と CLASKA の SNS でも、「#claska_roomsinprogress」のハッシュタグをつけて随時お知らせしていきます。そちらもぜひご覧ください。

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[掲載についてのお問い合わせ先]
CLASKA 広報 牛田実里(うしだみさ)
Tel:03-5773-9667 Fax:03-5773-9668 E-mail:press@claska.com


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ポスタルコは毎日使う物を先入見なしに観察して、そこにモノ作りの契機とヒントとインスピレーションを見つけています。ロゴが伝書鳩なのは、もともと手紙でのやり取り、コミュニケーションにインスパイアされたからです。そもそも始まりは書類入れとノートブックでしたが、革の財布、レインウェア、ペン、キーホルダー、バッグ・・・、など他のアイテムにも、独自の考え方を応用していきました。NYのブルックリンで起業し、いまは東京を拠点にして15年以上が経ちましたが、日々の暮らしに日本のものづくりの技術を活かせる途を見つけ出すこともポスタルコのテーマです。性別、年齢、国籍を問わずに愛されるそのプロダクトは、永く使われることを想定して作られていて、生活することを軽くみないで、そこにこそ驚きや、発見のよろこび、Fun(たのしさ)をみつけようとする姿勢につらぬかれています。そのデザインの特徴は、Understatement(控えめ)でありながら、Utility(実用性)にすぐれていて、どこかしらWarmth(ぬくもり)があります。

マイク・エーブルソン
ロサンゼルス(カリフォルニア州)生まれ。ロサンゼルスのアートセンターカレッジオブデザインでプロダクトデザインを学ぶ。1997年にNYへ移り、ジャック・スペードのコンセプト作りとプロダクトデザインに携わる。東京を拠点にして16年余り、ポスタルコでのプロダクトデザインだけでなく、カルダー財団、サンスペル、コンランショップ、イッセイ・ミヤケ、エルメスなど、さまざまなクライアントとの仕事をしている。